新春対談 伊藤:田中選手は、オリンピックの日本代表としてすごいプレッシャーの中で戦い、そのプレッシャーを日本代表のキャプテンとして乗り越えてきたのですが、今シーズンは特に「アルバルク東京を引っ張って優勝させるんだ」という自覚と責任感をすごく感じています。その影響もあって、普段の練習から周りの選手、特に若い選手には「次は自分が日本代表に選ばれて活躍するんだ」という雰囲気があります。田中選手がオリンピックに出たことによって、彼にとってもチームにとってもプラスの影響があったと思います。 世界とのつながり ―――伊藤さんは高校生の時にアメリカに留学して、海外でのプレーを経験されていますが、バスケットボールの世界においては、このような経験は重要なことなのでしょうか。 伊藤:今、世界のバスケットボール界、特に男子のレベルが本当に高いです。自分が中学校を卒業してから留学したときも、レベルの違いを肌で感じました。これは日本ではなかなか経験できなかったことなので、世界のレベルを肌で感じることは、選手にとって非常に大事なことだと思います。それと同時に、留学することによって、その国の文化を理解する、経験できるということが、人としてもすごくプラスになると思っていて、当時、NBAで活躍していた選手との交流もいまだに続いていますし、その選手との会話や思い出、経験が今の自分にとってプラスになっているので、選手としてレベルアップするためにも海外挑戦というのはすごくプラスになると思います。 ―――アルバルク東京からは馬場雄大選手が海外へ進出していますが、選手が海外のチームに移ることについて、チームとしてはどのように捉えていらっしゃいますか。 林:チームを預かる社長としては、戦力になる選手がいなくなることは大きな影響があります。馬場選手が海外挑戦する際の記者会見でも触れたのですが、Bリーグから海外に行くことが初めてだったんですね。これは野球でもサッカーでもあることですが、一度日本でプロを経験してから海外に行って、より羽ばたいてもらうことは、一つの可能性としてあるのではないかと思っています。  今後、体の成長度合いなどもありますが、ユースやクラブから海外に送り出すに当たって、トップチームだけではなく、クラブ全体のユースからどうやってグローバルな感覚を持って育成していくかや、クラブをどうやって海外から評価してもらうかというところも、選手の輩出における大きな決め手になると思っています。戦力的には厳しいですが、発展というところからすると、ぜひ、前向きに送り出していきたいと思います。 ―――府中市内には多くの外国人の方が住んでいらっしゃいますし、コロナ禍前には多くの外国人の方が訪れていました。アルバルク東京も様々な国籍の方で構成されていますので、時には難しい部分も多いかと思いますが、こうした多様性のあるコミュニティの、良い面や調和するための工夫などはありますか。 林:私は仕事の関係で、ドイツとベトナムの2か国の海外駐在を経験しました。初めて海外赴任したとき、何が一番大変だったかというと、「安全」と「医療」でした。外国人選手で初めて来日した選手もいますので、アルバルク東京に来る選手・コーチの安全と健康の面をしっかりサポートし、彼らの持っているポテンシャリティ(可能性)をより高めるために精神的な不安を取り除いてあげることが大切だと思っています。日本は安全だと世界から言われていますが、特に府中のような、生活してる人が多い場所は、安心して活動にまい進できると思います。 伊藤:お互いの国の文化を理解し、尊重し合うことが大事だと思います。それぞれの国で習慣や文化、マナーは違いますが、日本にいるから日本の文化を押し付けるのではなく、相手の国の文化を理解したうえで、日本の文化をしっかり伝える。相手の国を知ろうと思い、聞いて学ぶということも大事になると思います。アルバルク東京にはスペイン・アメリカ・セルビアから選手やコーチが来ていますが、日本の文化などについての質問もたくさんしてくれます。日本人選手・コーチからも、アメリカの場合はどうなのか、スペインの場合はどうなのか、という質問・コミュニケーションがすごく多いです。また、日本人選手は英語を毎日勉強していますし、外国人選手も「ありがとう」「おやすみなさい」「お疲れ様」などの簡単な日本語を少しずつ勉強していて、お互いが努力してコミュニケーションをとっていくことがすごく大事だと思います。 ―――高野市長は多様な方が共生できる地域作りに向けた取組についてどのようにお考えですか。 市長:お二人からもお話がありましたが、違いを認め合うことが大事だと思います。それぞれ皆さんが、自分と相手との違いを認め合う心をしっかり持つことと、伊藤さんがおっしゃった「言葉」が重要だと感じます。すぐに英語や中国語を使えるようにはなりませんが、行政から発する文章などにできるだけ多言語表記をするなどの取組を積み重ねていくことによって、府中に住む、あるいは府中を訪れる外国人の方がまちに愛着を持っていただける。そして府中の伝統や文化などを好きになっていただいて、さらに愛着を持っていただける、このことが、お互いのコミュニケーションが盛んになっていくことにつながると思います。 アルバルク東京と府中市とのつながり ―――2019年にアルバルク東京がFIBAアジアチャンピオンズカップで優勝した際には、府中市から市民スポーツ優秀賞を贈呈しました。府中市から見て、アルバルク東京はどのような存在ですか。 市長:チームに所属する選手の皆さん、スタッフの方も含めて、世界でトップの争いをするような選手たちもいらっしゃって、夢のチームのような感じがしています。さらに、2017-18、2018-19のBリーグチャンピオンであり、そして2019年のアジアチャンピオン、本当にすばらしい選手やスタッフがいること、これは市民のみんなが誇りに感じていますし、また、愛着を持って応援する市民の皆さんもたくさんいる、本当に大事なチームです。宝物です。 林:トヨタ自動車時代から、府中のこの地を拠点として、そこで鍛えた選手・コーチが表舞台に出ていって、Bリーグのチャンピオンに2年連続でなれた、そこからアジアチャンピオンにもなれたということに対しては、やはり府中市のバックアップなくしては成し得ないことだと思っています。支えていただいている市民の皆様の応援が、選手の力になっていると思っていますので、引き続き高野市長をはじめ、府中の皆様にはご支援をいただきたいと思っております。 ―――府中市や他の区市町村における地域とのつながりとしてどのような取組をされていますか。 林:本社やホームアリーナの所在地など、様々な場所でサポートを受け、現在のアルバルク東京の運営がなされていると思っています。府中市では、ボールふれあいフェスタや商工まつり、節分祭、そして最近は、スポーツの魅力を感じながら、子どもたちが楽しく算数を学ぶことができるよう、アルバルク東京の選手などに関連した問題で構成される、算数ドリルを小学6年生の皆さんにお配りして、アルバルク東京を知ってもらうのと同時に、数字にも強くなってもらおうと思っています。いろいろと企画を凝らしながら、市民の皆様と、アルバルク東京がより近い間柄になれるように工夫しながらイベントなどに参加しています。 ―――選手にとって、地域とのつながりで得られるのはどのようなものだとお考えですか。 伊藤:市民の皆さんの応援のおかげで僕たちはここまで頑張ってこられたという思いがあります。あとは特に子どもたちにもっと、「自分たちもこういう選手になりたい」だとか、「こういう目標を達成したい」と思ってもらえるような、お手本、目指したいと思うような選手・人間にならなくてはいけないと思います。 アルバルク東京 アシスタントゼネラルマネージャー  伊藤大司 さん  1986年生まれ。三重県鈴鹿市出身。中学校卒業後、アメリカに渡り、モントローズ・クリスチャン高校、ポートランド大学を経て、2010年にアルバルク東京の前身であるトヨタ自動車アルバルクに入団。ポジションはポイントガード。2017年にレバンガ北海道に移籍。2018年から2021年まで滋賀レイクスターズでプレーし、現役を引退。昨年6月に、アルバルク東京のアシスタントゼネラルマネージャーに就任。