大久保一丘《真人図》
最終更新日:2020年7月17日
おおくぼいっきゅう しんじんず
嘉永7年(1854)絹本著色 一幅
82.0センチメートル×29.5センチメートル
闇の中に少年が浮かび上がり、静かにこちらを見つめています。日本の子供のようですが、まるで西洋の肖像画のような写実性に驚かされます。作者は、大久保一丘(いっきゅう)という幕末の画人です。静岡の横須賀藩のお抱え絵師で、若い頃には、著名な洋風画家、司馬江漢の門人でした。
実は、この絵とよく似た作品が、各地に20点近くあります。しかし、一丘の作と確実に判明するものは、本作品を含めて二作品だけです。なぜ、同じような絵が多数描かれたのか、少年は誰なのか、そして幕末という時代に、これほどの高度な写実表現をどう学んだのか、多くの謎に包まれている絵です。
人物が正面を向いている肖像画は、西洋では一般的ですが、日本では、有名な「源頼朝像」のように斜めを向いているものがほとんどでした。これはひとつの想像ですが、この絵の作者は、舶載された油絵を前に、それまでの日本の絵画にはなかった、微妙な光と陰、肌の細やかな色や質感の表現を真摯に写しとりながら、日本の少年像に仕立てたのかもしれません。
西洋の写実は、江戸時代の画人の想像力を思わぬ形で広げました。謎めいた少年像の、伝統的とも近代的ともつかない独創的な造形は、美術に対する固定的な観念から、私たちを解き放ってくれるものでしょう。
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