第4回 「鳥越おかず横丁」
最終更新日:2021年1月13日
藪野健画「鳥越おかず横丁」1992年12月26日
東京は語彙量の大きな都市だ。
藪野健
下町、山の手、多摩、周辺、東京湾、隅田川、多摩川、荒川、表通り、街道と路地、台地と窪地、盛り場商店街、住宅地、工業地帯。鉄道と高速網、上下水網とインフラストラクチャー、病院、官公庁と思いつくまま挙げていくとジャンルが重なり、またきちんと分類しなおさなくてはならない。実際歩くと、巨大生命体のように触手を伸ばしているカオスの東京に出会うこととなる。
「浅草橋」(総武線、都営地下鉄)で降りる。遠く笛太鼓の音。鳥越神社の夏祭りであった。今は暗渠だが旧鳥越川を辿っていくことになった。途中突然に、戦前の町並味が現れる。なんだか遠い日々に出会ったようで嬉しい。時に父や母が祭りの人並みに見え隠れしたように思う。幸せな気分で描くことにした。正面が「鳥一」右一軒おいて「よしや食品」。(地図参照)いずれも傑作。
しばらく見とれていると、小学生のかなちゃんとちえちゃんから声。「何描いてんの」「母ちゃん、うちんち描いてる!」
お店から母親「おまいさん!大変よ来て」
ご主人「壊して綺麗な店にしたいんだ」
私「2階軒下のTSのイニシアルが見事」
近所の方「おい、先代の頭文字じゃねいかえ」
ご主人「そ、そうだ!こうやってじっくり見ると、ていへん、ていへん。う、美しい」
結局残ることになった。界隈も。
下町空襲を免れたので、この一帯だけはいたるところ見所がある。「鳥越バーバー」の洒落た青い入り口が気に入って、中に。理容室が素晴らしい!昭和4年の鏡、壁の飾り、それに天井の鋳物製のレリーフ。ご主人の間さんの話がまた凄い。「下町っ子は駆け引きがねえんだよ。江戸っ子の名残りだ」。それから、「粋、鯔背ってんのはね」で1時間、「鳥越キネマ」で1時間。タイムオーバーで再度。でも話は終わらず。
この空間は消えていったが、ご主人の話は新しいバーバーで続きが聞ける。
何度も通い描いていて、何れも実に楽しいひと時だった。
藪野健画「鳥越神社祭りの日」1992年6月5日
藪野健画「鳥越バーバー」1992年9月1日
藪野健画「隅田川周辺地図。」2003から2004年
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