令和6年(2024年) 1月1日号 第2041号 発行:府中市 編集:政策経営部秘書広報課 〒183-8703(個別郵便番号)府中市宮西町2の24 電話042-364-4111(代表) FAX042-366-1457(府中市の市外局番は042) ホームページ:https://www.city.fuchu.tokyo.jp/ 特集 キラリ★ふちゅう人 行司 三代目 木村容堂 様々な分野で活躍する市民等にスポットを当て、 インタビューを通してその活動や 府中の魅力を紹介する「キラリ★ふちゅう人」。 第2回は市内在住の行司 三代目 木村容堂さんに、 行司の仕事内容や相撲の魅力等について お話を伺いました。 三代目 木村容堂 昭和36年生まれ、府中市在住。16歳で木村裕司として初土俵、平成26年には三役格行司となり、平成28年に3代目木村容堂を襲名、現在に至る。行司の仕事のひとつである番付書き手を15年間務め、戦後7人目の番付書き手としても活躍した。 ─行司とはどのようなお仕事をされるのでしょうか?  土俵の上での取組裁きが一番目立つのですが、行司の仕事はそれだけではありません。取組編成会議での書記役や勝負記録の作成、場内アナウンスも行司が担当しています。  その他にも、番付表の作成や、土俵祭りといって、本場所初日の前日にお祓いをして、安全を祈願する神事の祭主を務めるという仕事もあります。  また、地方に力士が出向き、相撲を行う巡業の際は輸送係として、力士たちがスムーズに移動できるよう、電車やバスの手配等も行います。巡業も含めて、相撲という競技が安全に、そして円滑に行われるよう、様々な仕事を分担して行っています。 ─行司の年間スケジュールを教えてください。  まず、1月は東京で初場所があります。2月には大相撲トーナメントや引退力士の断髪式がある花相撲等を行います。そして、3月は大阪場所、4月には春の巡業があり、5月にはまた東京で本場所が開催されます。  これを繰り返し、本場所は年に6回、地方巡業は年に4回行うというスケジュールで動いています。1年のうち半分は地方にいるという生活ですね。 ─地方巡業はどこで行うのですか?  本場所が開催された地域を起点に、日々移動しながら様々な土地で行います。コロナ禍で中止していた巡業も現在は全て再開しており、各地で相撲を楽しんでもらえるようになってきました。 ─なぜ、行司になろうと思ったのですか?  子どもの頃から大の相撲好き。それがきっかけで興味を持ちました。行司になるためにはまず相撲部屋に入門の申込みをすることから始まります。  現在は、行司になるための研修や面接が用意されていますが、昔は「習うより慣れよ」の精神で、先輩方に教わりすぐ土俵に上がって何度も何度も練習を繰り返しました。  昔のことなのでその頃のことはあまり覚えていませんが、とにかく無我夢中で取り組み、場数を踏むことでここまでやってきました。 ─失敗の許されない土俵上の裁き。  何か心掛けていることはありますか?  入門した頃に教わったことを忘れず、基本に忠実に取り組むことを心掛けています。  行司としての技術を磨くには、とにかく経験を積むことが大切だと思っています。土俵上の裁きや所作を手取り足取り教えてもらうということでなく、自分の目で見て技術を盗んで、何度も実際に土俵に上がることで自分のものにしていく。そういった日々の積み重ねを大切にしています。 行司の階級  8階級あり、階級によって軍配の房や装束のひもの色、履物、所持品等が違います。  三役格行司の容堂さんは、紐の色が朱色、白足袋と草履を履くことが許され、印籠を身に着けています。 ─15年間も番付書き手を務められたと伺いました。  先代からの指名がきっかけで番付書き手になりました。  黒枠(番付表の枠線)を引くなどの仕事をする助手の期間の20年を入れると、番付係の仕事は35年ほど務めました。これは私が最長であると思います。  番付表は全て手書きです。一番小さいところは幅が2ミリメートルで、横綱になると幅が27ミリメートル程度。新番付が発表されると、ようやく自分もここまで大きく書いてもらえるようになったと喜ぶ昇進力士もいます。 ─番付表の完成までにどのくらい時間がかかりますか?  仕上げるのに10日程かかります。  書き始める前に、まず原稿を作成し、内容の読合せを行います。その後、模造紙サイズの用紙に筆で書いていき、最終確認の読合せを行って終了となります。  新番付発表の2週間前までに完成させるため、この役割がある時には巡業には参加せず、自宅でこの仕事に集中して取り組んでいます。 ─ぎっしりと書かれている文字が特徴的ですね。  これは相撲字と呼ばれるもので、行司は全員この字を練習します。土俵上の裁きがいくら立派でも、相撲字が書けないと一人前の行司とは言えないですね。  また、これはお客様がたくさん入るようにという縁起を担ぐため、太くぎっしりと詰めて書くのが習わしです。歌舞伎の勘亭流や落語の寄席文字等も同じだと聞いたことがあります。 ─容堂さんと府中市のつながりを教えてください。  生まれてからすぐ府中に引っ越してきて、それからずっと住んでいます。私の母校に息子も通ったんですよ。  息子が小さい頃に、何度か郷土の森博物館に行きましたね。プラネタリウムや復元された小学校の校舎等をよく訪れました。 ─市内では八朔相撲祭が毎年行われています。  子どもたちが相撲に取り組むことは、とても良いことだと思っています。子どもの頃から相撲に親しんでもらい、まずは相撲ってこんなに楽しいものなんだと感じてもらえたらうれしいです。  相撲界は今、入門者がとても少ないのが現状です。義務教育が終われば入門できるので、若いうちから相撲に親しみ、そしてプロを目指したいと思う方がいれば、ぜひ、自分の腕を試しに相撲部屋に入門していただきたいと思います。 八朔相撲祭とは  毎年8月1日に大國魂神社境内の土俵で行われる、子どもたちが主役の相撲祭りです。  1590年に豊作や天下泰平を祈る奉納相撲として始まり、現在では、小学生を中心にしたリーグ戦が行われています。 ─容堂さんにとって相撲の魅力とは何ですか?  何も武器を持たずに裸と裸のぶつかり合いをするところです。また、個人競技なので、稽古をした分だけ強くなれる、自分の力でいかようにもできるところが相撲の魅力だと思います。  相撲はスタートラインが全員一緒であり、どのような力士も同じ条件で戦うことができます。その点が最大の魅力であると感じています。  相撲はテレビでも見ることができますが、ぜひ、一度会場に足を運んでいただき、独特の雰囲気や張り手の迫力等を肌で感じていただきたいです。 ─今後の目標を教えてください。  責任のある仕事なので、間違いのないように、また、後輩の手本になれるようにしたいと思っています。  また、土俵上では、力士が安心して相撲をとれるような存在になりたいと思いますね。あの行司に裁いてもらうと力が出るなと思ってもらえるような、そんな存在になりたいです。  これからも日々の積み重ねを大切にして、力士から信頼される土俵をつくっていきたいと思います。