五百城文哉《日光東照宮》
最終更新日:2020年7月15日
いおきぶんさい にっこうとうしょうぐう
明治時代 紙、水彩
34.6センチメートル×25.2センチメートル
かの有名な陽明門を真横から見た、珍しい構図です。彫刻をした上に細やかな彩色をほどこした華麗な姿は、桃山から江戸という時代の流れをよく反映しているといえるでしょう。作者の五百城文哉は、水戸藩に生まれ、明治政府の農務省山林局で標本作成の仕事を担当するかたわらで、洋画家の高橋由一に入門して絵を学びました。文哉は植物には特に強い関心を寄せており、写生や画集の中には、植物学の資料としても貴重なものが多数残されています。そうして培われた緻密な描写力は、門にぎっしりとほどこされた装飾を、あますところなく描き出しています。
日光は、当時すでに人気の高い名所のひとつで、絵画にとりあげられることもしばしばでした。直線を多用したかっちりとした構図、奥の開かれた扉からのぞく神輿、そして手前の手すりの印象的な朱色。神聖な境内の緊張感がよく伝わってきます。圧倒されたように門を見上げる人々は、一家全員で名所観光か、あるいは、遠路日光へやって来た親族か友人を案内しているのでしょうか。なごやかな話し声がきこえてくるようです。晩年の13年間をここ日光で過ごした文哉は、こうした光景を頻繁に目にしたことでしょう。
本作品は、額裏に貼られたシールにより一度フランス人の手に渡ったものと思われます。神社、日本髪、和服といういかにも日本的な題材は、異国ではことさら好んで受け入れられたことでしょう。そしてさらに長い旅路を経て、現代人である私たちに、変わらぬ古き良き日本の姿を伝えてくれているのでしょう。
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