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司馬江漢《相州江之島児淵図》

最終更新日:2020年7月17日

画像 相州江之島児淵図

しばこうかん そうしゅうえのしまちごがふちず
江戸時代後期 紙本墨画淡彩 双幅
各123.8センチメートル×54.8センチメートル

 江ノ島の南側の岩場、稚児ヶ淵からの眺望です。相模湾を隔て、遠くに富士山を望み、沖には、奇岩「烏帽子岩」もみえます。いく艘もの船が繰り出している所は、いまサーフィンやモーターボートで賑わうあたりです。稚児ヶ淵には弁才天をまつった岩屋があって、遊山をかねた参拝者で賑わいました。突き出した岩の上や茶屋のあたりから、眺めを楽しむ人々もみえますが、当時、この茶屋には望遠鏡も備えられていたようです。
 司馬江漢は、江戸時代後期の洋風画家で、西洋風の油絵や銅版画を日本でいち早く手がけたことで知られています。この作品は、古くからの水墨画の技法で描かれていますが、西洋画風の立体感を表現するために、墨の濃淡を利用しています。また、岩場と、遠くの霞むような景色とを対比させた演出は、ダイナミックで爽やかなまでの空間の広がりを生んでいます。
 ところで、この作品は二つの掛軸からなる、いわゆる双幅です。双幅は、東洋画の伝統的な形式で、左右異なった題材を選んだり、対称的な構図にすることで、一幅だけでは表現できない効果を出すものです。この作品の場合には、連続したひとつの風景であると同時に、各々がまた、対称的な構図の山水画とみなすこともできるでしょう。
 現代の私たちには、身のまわりの景色を絵にすることは、ごく当り前のように思えます。しかし、実際の風景を絵にする面白さが「発見」されたのは、江戸時代後期、まさしく江漢が活躍した時代のことでした。この双幅は、床の間という空間に、それまでの中国風の荘厳な山水図にかわって、江の島の明るく爽やかな光と風を送り込んだのです。それはまさに、伝統美と近代的感覚との交叉する光景ではないでしょうか。

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